top of page
和田仁

肝細胞がんの炭素イオン線治療、実はコスパが良い!?


 肝細胞がんの治療法の一つである炭素イオン線治療は、国内では300万円あまりの高額な医療費がかかります。ただ、その有効性が証明されたことから、令和4年4月から一部の肝細胞がん(長径4cm以上)で保険適応となりました。


 そして、今回ご紹介するのは、以前から保険適応となっている標準的な治療法である肝動脈化学塞栓療法(TACE)と比べて、実は炭素イオン線治療のほうがコストパフォーマンスは良さそうという今年4月のadvances in radiation oncologyという医学雑誌(IF2.2)に掲載された群馬大からの論文です


 この論文によると、炭素イオン線治療を受けた患者の平均生存期間は2.75年で、生涯の総医療費は497万円。一方、TACEを受けた患者の平均生存期間は2.41年で、総医療費は528万円でした。つまり、平均生存期間も総医療費も炭素イオン線治療のほうがやや有利な結果でした。

 この研究は34人という少数患者さんが対象で、肝臓に再発した場合の再治療費が2年以内であれば無料という条件があり、これらの点については注意が必要です。それでも炭素イオン線治療は「高額」と思われがちなことから、医療経済的に非常に興味深い結果だと思います。

 

 肝細胞がんの炭素イオン線治療(重粒子線治療)が保険承認された時の、厚生労働省が公開している先進医療会議発表資料:05-1(先-5)資料3(先進医療会議発表資料0803)の中で、肝動脈化学塞栓療法(TACE)との比較表がPDF内(p.48)に示されています。

 ここでは、局所制御割合も3年全生存割合もTACEより炭素イオン線治療のほうが良好であることが示された一方で、各々の治療「だけを比較した」医療コストはTACEのほうが安くなっています。私たち放射線腫瘍医も、高いけど良い治療だよねという認識を持っていました。しかし、今回紹介した論文では、その後の「総医療費」はどちらも変わらない、つまり単に1回の治療の値段だけを比較するだけでは正確な評価にはならないよということを示唆してくれました。


 炭素イオン線治療の利点は、他にもあります。

 

 TACEですが、実は患者さんにとってけっこう大変な治療なのです。最初に足の太い動脈から針を刺して、血管カテーテルから造影剤や抗がん剤などを注入し、仰向けで数時間拘束される治療のTACE。そして、その日の夜は動脈からの出血を防止するため刺した部分を圧迫したままでベッド上安静となります。あと、意外に辛いと訴えが多いのが処置前に挿入される尿道カテーテル。男性は亀頭部から膀胱までが長く、高齢者は前立腺肥大もあったりで、一番辛かったと訴える方が少なくありません。

 一方で炭素イオン線治療は、なんと約1週間の外来通院治療で終了します。また、放射線に敏感な胃腸や正常の肝臓を保護しながらの狙い撃ち照射なので、よほどのことがない限り治療中の副作用を感じることはありません。先ほどの表(画像)で示されている主な有害事象はどちらもさほど変わりなさそうですが、治療を受ける立場の患者さんにとってはTACEより炭素イオン線治療のほうが治療期間中のQOL:生活の質はかなり楽な治療です。


 参考までに、その後に追視報告された2005年から2014年に日本の重粒子線施設で治療した肝細胞がん174例に対する多施設共同研究の治療成績が、QST病院さんホームページに掲載されているので、以下に引用します。

 『局所制御率(治療した病変が制御できている割合)が2年で87.7%、全生存率が2年で82.5%でした。一方で副作用については、一定以上の治療介入が必要な副作用(Grade3以上)は10例(5.7%)のみで認められました。』(引用)


 同じ粒子線治療である陽子線治療も炭素イオン線同様に楽な治療なのですが、陽子線は治療期間が最低2週間(長いと約2ヶ月)かかってしまうので、炭素イオン線のほうが「早くて」お得です。

 ただし、治療すべき病巣に胃腸など正常臓器が隣接するなど、いくつかの理由で炭素イオン線治療ができない患者さんがいます。でも、同じ粒子線治療である陽子線治療であれば治療が可能という方がいたりします。


 そして、一般の方からしたら「なぜ?」と思われるかもしれませんが、ある粒子線治療施設や診察医師では治療の適応外と診断されても、もしかすると別の施設や医師なら治療適応にしてくれる場合があったりします。保険診療や、先進医療の対象外でも、全額自費にはなりますが自由診療で治療を行える場合もあります。

 もちろん、ルールとして一定の適格基準は設けられていますが、医師の判断、裁量権により個別の病状で適否判断がばらつく場合というのは少なからずあったりします。



 これは肝細胞がんだけでなく、転移性肝がんでも同じことが言えます。自分の治療が本当にどの施設でもできないのか?いろいろな施設、そしていろいろな医師にお問い合わせすることを強くお勧めします。


 がんコーディネートくりにっくは、あなたのがん病巣を治療対象にしてくれるかもしれない施設、治療対象にしてくれそうな担当医がいらっしゃらないか、中立的な第三者的な立場でご相談させていただきます。お気軽にお問い合わせください。




Comments


bottom of page