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和田仁

がん検診の特ダネ情報(1)


 4月16日夜、くりにっくとして2度目のタピオ館立オープン大学講座を担当しました。今回のテーマは「がん診療ちょっと耳寄り話②がん検診の特ダネ情報」です。


 私は長年、放射線科医師として働いてきました。放射線治療が専門ですが、CTやMRIといった画像診断もお手伝いすることがよくありました。私が若かりし頃の地方病院はどこも医師不足で、放射線治療医と診断医が協力して業務をするなんてことはしばしばでした。また、大学病院勤務時代は健康診断のアルバイトもし、腹部超音波検査や胸部X線などの画像診断を行ってきました。

 そんな経緯があって今も、がん検診で今注目の全身MRI(DWIBS)などの画像診断を担当し、健診の内科診察も時々お手伝いします。あ、内科研修医時代にもしばしば健診の内科診察を担当しました。


 今回はその経験をもとに、がん検診の利点や欠点、最近の話題などをお伝えいたします。40分あまりの長い口演原稿なので、2回に分割して掲載いたします。少しでもご参考になれば幸いです。なお、緑の太字はスライド毎のタイトルです。


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1.「ケンシン」の種類と違い

 健診と検診、2つのタイプの「ケンシン」があります

 健診には、定期的な健康診断と、メタボリックシンドロームのチェックを含む特定の健康診断があります。これらは、一般的な健康状態を確認するためのものです。

 検診には、自治体が無料または安価な価格で提供する対策型検診と、個人が選択して自費負担する必要のある任意型検診があります。自治体の対策型検診は、特定のがんや疾患の早期発見を目的としています。一方、任意型検診は、人間ドックなどの検査を含みます。


2.健診は「将来」、検診は「今」を診る

 健診は「将来の健康」を見据え、検診は「今の状態」をチェックします。

 健診では、全身の健康状態を確認し、将来の病気を予防するための生活習慣を見直します。一方、検診では、特定の病気、例えばがんなどを検査し、早期発見と治療を促進します。


3.がん検診

 対策型と任意型の2つがあります。

 対策型のがん検診は、対象集団全体のがん関連の死亡率を下げることを目指しています。これは公的資金を使って行われ、誰もが負担を分担します。

 一方、任意型のがん検診は、個々人のがんに関するリスクを減らすことに焦点を当てています。検査費用は完全に自己負担となり、希望者が自分自身の健康に投資する形になります。


4.国が推奨する対策型検診

 胃がん、子宮頸癌、肺癌、乳がん、大腸がんの5つがあります。これらの検診は、それぞれ特定のがんに対する早期発見やリスク低減に役立ちます。


5.がん検診の利点

 次に、がん検診の利点と欠点についてお話いたします。がん検診の利点は、がんを早期に発見して治療を開始することで、がんによる死亡率を減少させることです。

 では、具体的にどのくらいの効果があり、がんによる死亡率をどのくらい減るのでしょうか。

 

6.がん検診受診者 → がん罹患者の割合

 これは2017年の日本対がん協会の調査に基づいています。

・肺がん

 1万人中約200人ががんの症状が疑われ、そのうち約157人が検査を受けました。その結果、5人ががんに罹患していましたが、152人が偽陽性とされました。

・胃がん

 1万人中約629人ががんの症状が疑われ、そのうち約491人が検査を受けました。その結果、12人ががんに罹患していましたが、479人が偽陽性とされました。

・大腸がん

 1万人のうち約607人ががんを疑われる症状があり、そのうち約417人が実際に検査を受けました。その結果、17人ががんであることが確認されましたが、400人はがんではないのに検査結果ががんの可能性があるとされました。

・乳がん

 女性1万人中約447人ががんを疑われる症状があり、そのうち約407人が検査を受けました。その結果、24人ががんであることが確認されましたが、383人はがんではないのに検査結果ががんの可能性があるとされました。

・子宮頸がん

 女性1万人中約150人ががんを疑われる症状があり、そのうち約125人が検査を受けました。その結果、125人のうち1人だけががんで、残りの124人はがんではないけれども、検査結果ががんの可能性があると出ました。


 偽陽性とは、実際にはがんではないのに、検査結果ががんの可能性があると示されることを指します。つまり、警告サインが出るものの実際にはがんではないということです。ですから、検査を受けるとがんに罹患している人もいますが、偽陽性の場合がかなり多いとわかります。この情報を知ることで、検査結果を正しく理解し、適切に対処することが大切です。


7.がん検診で、がん死亡率が減

 がん検診は、がんの死亡率を減らす効果があります。異なるがんの種類に対して行われる検査方法ごとに、その効果は異なります。

 大腸がんの場合、便潜血検査を受けることで、死亡率が16%減少すると報告されています。胃がんに対しては、胃カメラや透視検査を受けることで、死亡率が40%減少するとされています。肺がんのスクリーニングでは、胸部X線を受けることで、死亡率が30%減少することが示されています。乳がん検診では、マンモグラフィーを受けることで、死亡率が19〜25%減少すると報告されています。子宮頸がんに関しては、擦過細胞診を受けることで、最大80%の死亡率減少が報告されています。

 これらのデータは、がん検診が実際に命を救う効果があることを示しています


8.がん検診で、総死亡率は減らず

 「がん検診は全体の死亡率を下げないのか?」というお話です。

 2016年の有名な医学雑誌BMJに掲載された研究によると、がん検診を受けることで全体の死亡率が減るという証拠は見当たらなかったそうです。

 では、大腸がん検診を例に考えてみます。2017年の大腸がん死亡率は、1万人あたり4.5人でした。しかし、大腸がん検診を受けることで、その死亡率が16%減少します。つまり、1万人中わずか0.72人が検診により救命されることになります。さらに、総死亡率に対する大腸がんの死亡数の割合は約3.7%(134万4千人の総死亡者のうち5万人が大腸がんで死亡)です。このようなわずかな差の確率に対し、膨大な人数のデータを長期間にわたって調査する必要があり、統計的にがん検診の効果をはっきり示すのは難しいです。

 なお、去年のJAMAという医学雑誌に、新しい情報がありました。それによると、S状結腸鏡検査だけが受ける人々の寿命を延ばす効果が認められたそうです。でも、マンパワーが必要で受検者の身体負担も大きい検査を、一次検診で普及させるのは現実的には困難です。


9.がん検診の欠点

・偽陰性: がんを見逃してしまうことがあります。

・偽陽性: がんの疑いがあると判断されても、実際にはがんではない場合があります。その後の詳しい検査でがんが見つからないことがあります。

・過剰診断: 生命に直接的な危険を及ぼさないがんを見つけてしまうことがあります。

 つまり、がん検診にもこのような問題があることを知っておく必要があります(日本医師会の情報を参考)。


10.過剰診断の多さ

 特に問題視されるのは、過剰診断の問題です(日本対がん協会の情報を参考)。

・「異常なし」と診断されても、実際にはがんがないとは限りません。

・結果的に、必要のない治療や検査を受ける可能性があります。

・検診で見つかるのは、命に大きな影響を及ぼさないがんもあります。

・検査中にけがをすることや、不要な放射線を浴びる可能性があります。

・検診でがん死亡率が20%改善されても、80%は無駄だったという見方もあります。

しかし、この20%改善という数字で、がんに対する安心感を得る人は多いです。


11.がんのいろいろな進行タイプ

 がんにはいろいろな進行パターンがあります。進行がとても速く、次の検診までに症状が出たり命にかかわるがんがあり、これはがん検診での早期発見が難しいタイプです。一方で、進行が遅く、症状が出るまでとても時間がかかったり途中で進行が止まったりして、他の病気の影響でがん死に至らない場合もあります。


 大きな問題は、現在の検査ではこれらのパターンを正確に把握するのが難しいということです。



 ここでいったん終了、特ダネ情報は次回(2)が中心です。ごめんなさい。






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