6月24~25日の2日間、第5回日本在宅医療連合学会学術大会が新潟の朱鷺メッセで開催されます。初日(本日)朝8時からのシンポジウム3 「病院主治医との二人主治医制の勧め」で、私も表題の講演発表をさせていただきました。
このシンポジウムは、『専門医(多くは病院主治医) との親密な連携があれば、わたしたちも、豊かな安心を、患者/家族に提供できます。そのための知恵の収集となるように』(学術大会抄録から一部抜粋して転載)との期待から企画されたそうです。免疫チェックポイント阻害剤の副作用に気づいた時の対応・在宅医療者に必要な放射線治療知識・医療的ケア児・腎移植後の対応やケア・在宅での輸血や血液疾患という各テーマについて、それぞれの第一人者に語っていただく、というものでした。
開業医である私が、第一人者の先生方に混じって語っても良いものだろうか?最初にご依頼を受けた時に正直そう思いました。そこで、日本放射線腫瘍学会の緩和的放射線治療委員会委員長の高橋健夫先生に、「私が発表しても大丈夫ですか?」とまずはお伺いを立て、私でも可とのご了承をいただきました。
4年前にさかのぼるのですが、歴史ある日本在宅医学会と日本在宅医療学会の両者が合併した記念すべき第1回日本在宅医療連合学会学術大会で、大会長の森清先生(東大和ホームケアクリニック)から「在宅医療に役立つ緩和的放射線治療」をテーマにしたショートレクチャー講演を、私にご依頼いただいたことがありました。私が宮城県立がんセンター在職時、在宅医療や緩和的放射線治療にけっこう力を入れて活動していたことをご存じだった武蔵村山病院放射線治療科平栄先生が、演者を探されていた森清先生に僭越ながら私をご推挙いただいたことがご縁での発表でした。
そして今回、シンポジウム「病院主治医との二人主治医制の勧め」の座長である森清先生が「ぜひまた、シンポジストとして発表を」との光栄な再打診を私にくださりました。私がすでにくりにっく開業していたことを森先生はご存じなかったのですが、森先生からも開業医OKとのお返事をいただきました。ということで久しぶりにワクワクしながら学会発表の準備をして、新潟へ向かいました。
私が担当した発表の抄録、少し長いですが以下に転記します。
『予後が限られた在宅がん患者さんに対しても、投薬治療などに難渋する症状緩和に放射線治療が役立つケースはある。本発表では、患者さん負担を極力減らす1回だけの緩和的放射線治療ご紹介、在宅における緩和的放射線治療の課題や普及に向けての学会活動や地域連携などについて言及する。
放射線治療には根治的放射線治療と、がんの苦痛を和らげる緩和的放射線治療がある。後者は、いかに副作用なく心身の負担を少なくするかが求められ、最近ではたった1回だけの放射線治療が標準治療となってきた。高いエビデンスが示されているのが、骨転移に対する除痛である。腫瘍による脊髄圧迫症候群やがんで肝臓腫大による腹痛、腫瘍からの出血に対する止血など、がん関連症状の改善にも1回照射の有効性が多くの臨床試験などで示されている。
放射線治療を行う機会は無いか稀という施設が多い現在の日本のがん終末期在宅医療。放射線治療の適否、治療施設の受け入れ態勢、施設や地域間格差といった課題だけでなく、在宅医だけでなく患者さん自身も放射線「治療」など今さらと希望されない場合も多い。そのような諸課題を改善すべく緩和的放射線治療の積極的な活用に向け、 日本放射線腫瘍学会が提言書を最近作成した。普及の足かせとなる主な要因として、①医療連携が十分でない、②緩和的放射線治療の知識が十分でない、③放射線治療医が少ない、④一般市民が正しい情報を得られる機会が乏しい、ことが挙げられる。今後に向けた課題解決への施策として、①医療従事者間の連携強化、②医療人材の育成、③市民に対する積極的な啓発・広報、を提案している。 本発表が、在宅がん患者さんや医療関係者らに何らかのお役に立てば幸いである。』(一部改変)
当日のスライド発表では、抄録記載内容だけでなく、添付画像のように痛みを伴う「非」骨転移病変に対する除痛についても、最近の話題を紹介いたしました。先日のブログでご紹介した今年の注目であるほぼ全肝臓照射についても、もちろんお話しました。https://www.ccc8jin.life/post/20230330
また、昔書いていた別のブログでもちょくちょく話題にしていたがん緊急照射。実はこれ、在宅医療患者さんでもけっこう適応になるんです!ってことも、ご紹介しました。緊急照射だから、早期に短期に、そしてなるべく楽に治療をご提供しないといけないんです。だから、心身の制約がいろいろある在宅緩和患者さん向きでもあるんです。
私が発表直後の質疑応答で、「照射して腫瘍からの出血がかえってひどくなることはないですか?」とのご質問がありました。もちろん、そういう場合も(少ないですが)ありえます。しかし、抗がん剤あるいは無治療経過観察(いわゆるbest supportive care)であっても、腫瘍からの出血がひどくなることは少なからずあります。というか、そのような経過で腫瘍からの出血がひどくなって困っている方々ばかりを対象に緩和照射をしたら「3人に2人が止血効果あり、出血を含めた致命的な有害事象がほとんどない」ことが、国内外のいろいろな臨床試験や前向き観察研究で証明されてきているのです。私の臨床経験上、止血緩和照射は効きそうだ、大丈夫そうだと手応えを感じていただいた各診療科の先生方は、何度も「リピート照射依頼」をしてくださります。
シンポジウム終了後に、私にご依頼くださった座長の森先生から「何人かの在宅医に止血緩和照射について聞いてみたんですけど、知らない先生ばかりでした。今回の発表が在宅の患者さんにも役立つことを期待しています!」とのお礼の言葉をいただきました。止血緩和照射、なぜ止血効果が得られるのかあまりよくわかっていませんが、結構すぐに止まります。あまり知られてませんが、結構効くんです。医学的ではない感覚的な表現ですが、過去の多くの臨床データから重篤な有害事象もほぼなさそうですし、困っている患者さんや介護者の方々とも相談の上で勇気を出して一度お試しいただきたいものです。
在宅医療における緩和的放射線治療、もちろん以下に挙げたような実運用面での課題がいろいろあります。在宅医療の現場に携わる医療者の方々には釈迦に説法かとは思いますが、どれもそんな簡単に解決できることではないでしょう。
【在宅医療側の問題点】
1.照射適否の判断
・検査をしないと、その判断が難しい
・緩和的放射線治療の理解や経験が不足している
2.患者さんを自宅から病院へ移動・搬送するのが大変
3.そして、そもそも希望なし。もしかすると、これが一番の理由かもしれません。
・今さら「治療」なんてしなくても…
・在宅主治医も、介護者の方々も、そして患者さんご自身も…
【放射線腫瘍医(受入施設)の問題点】
1.病院の受け入れ態勢
・多くの場合で、複数回受診が必要
・(緊急での)どこで入院対応するかが難しい
・多くの放射線腫瘍医が入院病床を持たない(主治医からの請負業務のみ)
2.施設間格差(照射適応の温度差)
・地域によって、診療科によって、そして個々の医師によって、対応・方針が違う
でも、決してできないことはないと思うのです。実際に行っている地域や先生は少なからずいらっしゃいますし。
在宅患者さんへの緩和的放射線治療。決して押し売りする治療ではありませんが、選択肢の一つとして頭の片隅にあれば、診療の幅、そして患者さんや介護する身内の方々の心身負担が軽減できる可能性があります。
聴講してくださった方々の記憶の片隅に少しでも残るように、今回の発表が困っている誰かの役に立てますように。そんなことを期待しながら、(後半は時間に追われてやっぱり早口の発表になってしまいましたが)心を込めて発表させていただきました。久しぶりの現地学会発表、少し疲れましたが楽しいひとときでした。
PS:今回は初日早朝のセッションで他にもたくさんの会場がありました。また、なんと同じ日に奈良で第8回日本がんサポーティブケア学会学術集会がブッキング開催され、新潟に来ることができなかった方々も少なくなかったようです。
でも、さすが今どきの学会です。オンラインとのハイブリッド開催で、後日WEB視聴もできるとのことです。期間限定で、参加費は必要ですが、時間と金銭に余裕ある先生方は可能であればご聴講下さり、私の発表に対するご助言やご指導をいただければ幸いです。
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