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和田仁

潜在意識の中に病気克服のヒント「現役医師が熱く語る がん患者を支える催眠療法」萩原優著 太陽出版


 12年の時を経て、がんの催眠療法にほぼ特化した内容となった書籍「現役医師が熱く語る がん患者を支える催眠療法」が、私の要望をきっかけにめでたく出版されました。

 実は2010年に「がんの催眠療法」という書籍が出版されていたのですが、残念ながら絶版となってしまいました(Amazonなどで中古本は手に入ります)。今回の新刊書籍は、知識経験ともに更にパワーアップされた萩原先生のクリニックでの臨床実績を追加した形での「がんの催眠療法」増補・改訂版として、タイトルも新たに世に出ました。そして12年経過した現在も、「がん」に特化した催眠療法に関する他の日本語書籍はないようです。


 今回の発刊は2023年3月31日、くりにっく開院届け出2周年の記念日でもあります。ちなみに私も去年くりにっくブログで、この書籍が世に出るきっかけとなった私の要望は以下のURLに記載していました。

 著者の萩原先生が書籍冒頭の「増補・改訂にあたって」に、出版に至るまでの経緯として『仙台在住の和田医師が』と実名入りで私のことをご紹介くださりました。また、今回の書籍のリニューアル出版までのストーリーを、Dr萩原の催眠TVというYoutubeチャンネルでもご紹介されました。


 萩原先生、改めてありがとうございます。ということで、今回のブログでは、新刊書籍を拝読した私なりに感じたことなどを、ご紹介させていただこうと思います。なお今回は増補・改訂版ということで、前作の「がんの催眠療法」で書かれていた内容が新刊にも再度それなりに記されています。前回の読書感想については以下のURLに掲載していましたので、よろしかったら合わせてご覧ください。



 このブログでも何度か書いていますが、私ががん診療における催眠療法に期待感を抱いているのは、宗教や科学に依存することなく、医療者を含めた他者に依存することなく、ご自身で死生観などの本質的なきづきや癒しを得られる可能性がありそうだからです。

 この書籍のPart I では『肉体を持った存在としてのみ焦点を合わせる、物質的な西洋医学には限界があるのです。身体と心は切り離すことができないので、どうしても「心身一如」の世界、さらには魂・精神・体が織物のようにお互いが影響しあっている領域に踏み込まざるを得ない。ゆえに、これからは「見えない世界」を想定した医療が必要であり、スピリチュアルな医療が求められていると私は思います』(書籍p.27より引用)と萩原先生が記されています。病は気から、私も病院の臨床現場で実感し続けてきました。


 スピリチュアル、特に日本では「スピ(リチュアル)系」というオカルトや宗教関連で目先の幸せや癒やしを得る手段や思想といったネガティブイメージな言葉で捉えられがちです。もっとも、最近の若い世代の方々は、映画や歌、そしてネットなどでもいろいろな情報があふれているので、私たち世代ほどスピリチュアル関連の言葉に抵抗はないのかもしれませんね。

 また、医療や科学という分野では、本当の意味での(日本の)スピリチュアルケアはまだまだこれからな感じを受けています。これまで私がいろいろながん緩和ケアの専門家が集まる国内の医療系学会などに参加して、しばしば感じてきたことでもあるのですが、『身体と精神のつながりについては、すでに心身医学の領域で扱われていますが、より深い魂(スピリット)に関しては、医療領域で真正面から取り上げることはまずありません。ターミナルケアで、終末期におけるスピリチュアルペイン(生死に関してさまざまな疑問を抱くことで生まれる苦痛)に対するスピリチュアルケアという文脈で使われる程度で、医療従事者が目に見えない世界に足を踏み入れることは未だにタブー視されています。』(書籍p.29より引用)。


 世界保健機関(WHO)ではスピリチュアルという概念はかなり前から真剣に検討されています。WHOが検討しているスピリチュアルな健康、日本のがん診療では心(メンタル)の部分は心理士さんや看護師さんなど医療現場の職種が主に関わっています。魂(スピリット)に関してはこれまでは宗教関係者が関わることが多く、最近では宗教の枠を超えた臨床宗教家といった立場の方々も活躍し始めています。ただ、スピリチュアルペインや死生観というものは、宗教だけの話ではなく無宗教の方々や宗教になんらかの抵抗感・違和感を持つ方々にとっても大変重要な問題です。もちろん、唯物論者や死後の世界を信じない方々はたくさんいらっしゃいますし、世界中にはいろいろな他の心理学的アプローチや哲学、瞑想法などがあります。

 それでもやはり、自分の潜在意識に自ら近づき、自分で癒しを得られ、人によっては自分の死生観や生きている意義まで気づきが得られるという点で、医療者として人としてがんの催眠療法に底知れぬ期待感を抱いています。あくまで今の私の見解・気分です。


 新刊書籍の具体的な各論部分では、最初に退行催眠としての前世療法や幼児退行催眠の症例報告が何例か掲載されていました。また、自分自身のがん細胞に語りかけるソマティックヒーリング(体細胞療法)、ヒプノチャネリング、がん疼痛に対する暗示療法など、普通の病院業務では見聞きすることがまずない催眠療法の種類がいろいろ紹介されていました。がん罹患の精神心理的な癒やしや緩和、痛みなど身体的苦痛に対する症状緩和にも、補助的に利用されることがある催眠療法。まだ実地経験が不足している私にとって、臨床現場で活用するための経験や知識を重ねることが大切だという学びを、この新刊書籍から得ました。チャネリングについては、私はまだよくわかりません(懐疑的な部分があります)。

 あえて書くとすればですが、書籍の最終Partに記されていたがん疼痛に対する暗示療法(催眠療法)の部分については、具体的な技術面の記述で私は物足りなさを感じました。厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』サイトには、『催眠療法は、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)、状態不安(内科的治療や手術の前など)、更年期障害の症状、乳がん治療によるホットフラッシュ(ほてり)、頭痛、心的外傷後ストレス障害など、さまざまな症状・疾患を対象に研究されてきました。また、疼痛管理や禁煙ついても研究されています。~中略~ 催眠療法が一部の痛みを伴う症状・疾患の管理に有用な可能性を示唆するエビデンスが増えています。』(引用)とあり、科学的には身体症状についての研究がいろいろ進んできています。いずれまた出るであろう(?)第3版では、身体症状緩和のがん催眠療法についても増補追記されていることを期待しています。



 催眠療法の感想ではありませんが、この新刊書籍で記されていた萩原先生のコメント内容で、がん診療専門の医師として私がこれまで感じてきたこととかなり合致する箇所がたくさんあります。ここからは、その部分について書こうと思います。

 どうもここ最近の私は、萩原先生と同じような気持ちの変化や行動をたどっているような気がします。私が今後、萩原先生のような催眠療法の大家となれるかどうかはわかりませんが、メンターのような存在でいらっしゃることは確かです。


 萩原先生は、消化器外科医として30年以上医療の現場に携わる中で『西洋医学だけによる医療の限界を感じ、ある時期から西洋医学と補完・代替医療を統合したホリスティック医療を目指すようになりました。そして、心理学やエネルギーワーク、ヒプノセラピー(催眠療法)を含むさまざまな代替療法を学び、がんのイメージ療法として知られるサイモントン療法などに触れて催眠療法の効能を再認識し、本格的に催眠療法について学び始めました』(書籍p.6-8より引用)とのことです。

 私も放射線腫瘍医として30年以上医療の現場に携わる中で、同じようにいろいろな代替療法や心理療法を自分なりに学んできました。その中で、現在は特に催眠療法への期待を感じています。


 萩原先生も私も、西洋医学のすばらしさや利点を経験し理解しています。書籍の中で萩原先生は代替医療について『一方、代替医療をやっている人の中には、西洋医学におけるがんの3大治療法(手術・化学療法・放射線療法)に否定的な人も少なくありません。代替医療は、西洋医学の代わりに行うというスタンスで、それが極端になると西洋医学と対立する恐れもあります。また、マスコミなどで「西洋医学に頼らずに自分で治した」「西洋医学はいらない」といった報道も一部見受けられることがありますが、それは明らかに極論だと思います。〜(中略)〜 たとえば、ステージIVの人が「自分は末期がんで、余命3ヶ月から6ヶ月と言われていたのに、それ以上元気でいきている」というようなケース。しかし、たとえステージIVであっても、なにも奇跡的なことが起きなくても自然に治る人はいるわけです。腫瘍マーカーが高かったのが下がったというのも、必ずしもがんでなくても上がる場合があります。要するに、検査ではっきりとがんが確認されていたわけではなかった可能性もあるのです。』(Part I、p.21-23より引用)と書かれました。さらに、『補完・代替医療の中でも、単に「この〇〇がいいよ」とサプリメントや健康商品などを勧めるだけだと、私から見ると副作用のない(あるいは少ない)西洋医学をやっているのとあまり変わりはないのではないか?ということでした。』(Part I、p.31より引用)とも書かれました。

 これらも私は同じ見解です。西洋医学はいらない、西洋医学はデータ改ざん・大富豪らの陰謀論、などとおっしゃっている代替医療系の医師たちは、はたして本当にきちんとがんの臨床現場を見てきたのだろうか、と疑問を感じる方々が多い印象です。彼らの経歴を拝見すると、「やはり」と思う医師が少なくありません。外来診療だけとか、基礎研究者とか、若いころに数年だけ入院管理したとか、高齢者施設在籍とか。また、医者が書いた書籍やネット情報も、がん専門医として内容が疑わしいと感じざるを得ない記載が少なくありません。もっとも、私の見解も偏った見方かもしれません。最終的には自分でどの情報をどう信じ、どう利用するか、そしてどう生きるか、なのでしょう。そんな時に自分の潜在意識に問いかけると本当の答えが見えるかもしれない。催眠療法はそんな時に役立つ可能性があるかもしれない。そこも私が医師として個人の人間として期待している所です。



 これからのがん医療、いや全ての医療で、目に見える身体的な苦痛だけでなく、目に見えない心や精神、魂の領域も含めた全人的な苦痛の緩和が、ますます注目され重要となる時代を迎えています。心の奥底(潜在意識)に本人自らつながることができる催眠療法。この新刊書籍タイトルの通り「がん患者を支える」ための大事な選択肢になると大いに期待しています。



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