ワールドキャンサーデー2022が先日の2月4日にオンライン開催されました。https://www.worldcancerday.jp/
ワールドキャンサーデー、ご存じですか?ホームページに掲載されているワールドキャンサーデーとはについて、UICC(Union for International Cancer Control、国際対がん連合)日本委員会委員長である野田哲生さんの紹介文をお借りして、以下『 』内に転載させていただきます。
『2000年2月4日、パリで開催された「がんサミット」から始まったUICCの取り組みです。今年は公平性の問題を中心とした新しい3年間のキャンペーン「Close the Care Gap!」(がん医療のギャップを埋めよう)の最初の年です。UICCは、がん治療における公平性が損なわれている現状を認識し、医療へのアクセスにおいて多くの人々に存在する障壁と、これらの障壁がどのような影響を社会に与えているのかを改めて捉えなおすことを目指しています。』
オンデマンド配信ワールドキャンサーデー・セッションというものもあり、今年は9つのセッションが今も無料で視聴することができます。
セッション8で放射線治療、「ワールドキャンサーデー・セッションUHC(Universal Health Coverage)の観点から見た日本の放射線治療の問題」というタイトルでした。
日本の放射線治療のUniversal Health Coverage(誰ひとり取り残さない医療)の実現のための提言が、日本の放射線腫瘍医の権威・専門家らのアンケート調査結果を元に7項目挙げられています。一般社団法人アジアがんフォーラムの加瀬郁子さんのスライド、Youtubeでは20分45秒あたりからです。
①IMRT(強度変調放射線治療)施設基準における医師の人的要件の見直し
②遠隔医療推進のための診療報酬制度や各種仕組みの設計
③放射線治療の専門性を他科の医師の意思決定に生かす仕組みづくり
④医学物理士の国家資格化あるいはそれに代わりうる放射線治療関連コメディカルの制度設計のアップデート
⑤放射線治療医と医学物理士の量・質の充実
⑥対がんコミュニティによる放射線治療業界への後押し
⑦医療資源の最適配分を目指した放射線治療施設の集約化と均てん化のグランドデザインの策定
それぞれが以前から言われている重要な課題ですね。IMRTを主とする高精度放射線治療の普及均てん化、さらに人材育成と専門資格やルールの充足という質や量の拡充が大事というまとめ。そして、その解決に向けて現状では閉塞感、行き詰まり感があるという山梨大の大西先生からの追加コメントもありました。とても参考になるセッションでした。
このセッションの総合討論の最後のほうで、今流行のShared decision makingが大事であると、そのためにAIによる治療方針の提示や遠隔放射線治療などIT技術の活用が良いだろうという話題も出ていました。将来的にはそのような方向も大事な側面であろうと思います。ただ、すぐに保険診療内で利用するのは無理でしょう。また、AI技術が進歩して患者さんの治療選択肢に手術以外に放射線治療があるという結果が出ても、主治医が「それはあくまで一般論、手術しかない」と強気に出れば患者さん側がそれを覆すのは容易ではありません。
どうすれば「個々の」患者さんの治療方針で放射線治療の選択肢が提示されやすくなるか。IMRTをはじめとする高精度放射線治療が欧米並みに普及すれば変わるのではないかとも議論されていました。しかし、世界最高峰レベルの高精度放射線治療装置が一通り備わっている施設に所属していても、結局は担当医が外来(または病棟)で患者さんと相談する所で、つまり臨床医療の最前線の現場できちんと患者さんに伝わる環境がなければ、旧態依然たる放射線治療内容であろうと最先端の高精度放射線治療であろうと、さほど変わらないんじゃないか?そう簡単には普及に繋がらないんじゃないだろうか?実体験からくる私の現時点での見解です。
おそらく放射線腫瘍医が個々の患者さんへ直接、放射線治療の選択肢を説明する機会が増やせれば、放射線治療の件数は確実に増加することでしょう。しかし、最近は高精度放射線治療というコンピュータの前での作業が大変増え、そうでなくても業務が手一杯という先生方が多くなっています。医療の進歩のために臨床試験を始めとするエビデンス構築はもちろん大事。ただ、そのため限られた人的資源がさらに制限されている現状もあります。一般的な放射線腫瘍医は直接主治医として患者さんを入院治療などを含めたその後の体調管理をすることも、一部の施設を除いてほとんどありません。
ということで、マンパワーが足りないという放射線腫瘍医側の言い分(言い訳?)はいろいろあるのですが、そんなこと言っても他科のお医者さんたちにはなかなか通じません。もし、主治医と放射線腫瘍医の意見が相違した場合、「そこまで言うなら放射線治療科で主治医となって患者さんを診察してくださいよ」と言われることは少なくありません。同じ病院で働いていると、主治医からの治療請負役である放射線腫瘍医も外来診察における主治医と患者さんとの関係に近い一種の主従関係になりがちなのです。
各施設、各担当医の理解度や力量(≒懐の深さ)にもよりますが、おそらくこの部分が大きく改善されないと、先程の「閉塞感」「行き詰まり感」は抜本的に解消されないように感じています。私が医師になった約30年前からすでにそういう立場で長く仕事をされている日本の放射線腫瘍医は多いはずです。
そんな行き詰まり感、閉塞感を打破せんがために、私自身は「がんコーディネートくりにっく」で開業という選択をいたしました。放治をしてくれない医療者側からでなく、最前線で放置をされがちな利用者さん側からアプローチをすることにしました。
患者さんを含めたキャンサーボードを開催するには、実際の外来診察時が一番効率良いと思っています。もちろん医療者側の専門家が多数揃うというのは難しいですが、外来というのは専門家同士の意見を集約しつつ結局は実際に診察する担当医が患者さんと話をする主従関係が起きてしまうことが常日頃です。担当医側ではなく、患者さん側に同じレベルの専門家の医療者が伴って相談し、ようやく対等に近い関係が築けると私は思っています。
ちなみに私、がん治療を放置している医療者にはとても強い違和感をもっています。もちろん一部の患者さんには経過観察は大事な選択肢となりますが。。。
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