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和田仁

粒子線治療のピットフォール(先進医療の適否)

 日常診療において、陥りやすい、あるいは自覚がないまま陥ってしまう落とし穴というものがいろいろ存在します。その落とし穴のことをピットフォールとも言います。粒子線治療にも一般の方のみならずがん専門のお医者さんたちであっても、あまり知られていない、あるいは気づいていないピットフォールがあります。

 今回は、先進医療における粒子線治療の適応(治療ができるか否か)について、私なりに思うピットフォールといえそうなものをいくつか挙げたいと思います。画像は、私が似たようなお話を執筆させていただいた一昨年の緩和ケア増刊号の表紙です。この特集、けっこうおススメです。私が執筆者の一人だから言っているわけではありません。


 先進医療は、承認されたがんの全てのステージではなく、粒子線治療で根治が大きく期待できそうな病態(ステージとか組織型とか)に限定して適応となります。一般の方的には、この部分がピットフォールとなりえます。対象となっているがんと診断されているのに何で粒子線治療ができないんだ?とご納得されない方々も少なくありません。お医者さんですらきちんと区別できていない方はけっこういらっしゃいます。いちいち粒子線治療の適応なんてきちんと覚えてられないよ!とケチをつけられそうですが。

 

 そのステージ診断ですが(これはどの治療であっても同じなのですが)各医師の判断で異なる場合がよくあります。例えば、あるがん種で治療前に肺に小さな結節がいくつかあり、(がんの発見に最適とされる事が多い)PETCTで集積(写真で赤く色づく)があったとしても、施設によっては、いや個々の医師によって陽性(がんの肺転移)か陰性(がんの肺転移ではない)かの判断が変わることがあります。もちろん、ある程度の基準や線引きはあるのですが、臨床診断の限界というか、主治医判断というか...キャンサーボードという施設内での複数医師によるチェックはあるものの、最終的には主治医の判断が決め手となる場合が少なくありません。厳格な医師では先進医療がダメとなるステージでも、緩い医師ではOKとなる場合があります。

 ほぼどの施設でも約300万円もする高額治療なのに、そんなのおかしい!って文句を言いたくなるでしょうが、そんなバカな?と思われるでしょうが、決してまれなことではないんです。おそらくどの施設であっても...


 高額な300万円にまつわるピットフォールも。先進医療というのは、正式に国が認めた保険診療にはまだなっていないものの、「保険収載が期待できそうだから、国はお金を出さないけど、患者さんが自己負担で全額お金を払っていただき、臨床研究の形できちんと治療や経過観察をして信頼に足るまとまった治療成績を評価・報告してくれるなら、特別に他の保険診療と一緒に実験的に治療をしても良いですよ」と特例的に扱われているものです。この辺の詳細は後日またブログの話題にさせていただきます。

 粒子線治療はそもそも装置が大掛かりで初期投資も維持費もお高く、おひとり約300万円の高額治療費がかかり(付随する治療費は別途請求)、新たに導入したら年間数百人の患者さんを治療しないと元が取れないと言われています。日本の粒子線治療施設、結構な赤字を出している所が多いんじゃないかな?


 お金持ちならまだしも、そこそこの車を買うのと同じ値段であり、全額自費というのはなかなか大変です。そこで各民間保険会社さんたちが、「先進医療保険特約」というものを比較的お値打ちな料金設定で販売しています。この特約に加入した方が先進医療粒子線治療の対象病態に罹患すれば、全額自己負担となる約300万円を保険会社さんが(各特約の規定によりますが)支払代行してくださるのです。つまり先進的で高額な粒子線治療を(ほぼ)タダで受けることができるのです。

 実はこのことを知らないがん専門の先生方はいまだにいらっしゃって、頭ごなしに「あんな高い放射線治療なんてもったいない」と選択肢に挙げてくださらないことがあります。かつて私が南東北がん陽子線治療センター在籍中にも時々経験しました。直接お金の問題ではなく、先進医療はまだ保険で認められていない不確実な治療法だし(お医者さんが好きな)診療ガイドラインに載っていない治療だからダメ、と否定される先生が多いのは確かですが、中には粒子線治療施設に紹介すると自分の施設の治療売上が落ちるから拒否とおっしゃる(か心のなかでささやく)先生も少なからずいらっしゃいました。施設の幹部クラスの先生方は経営のこともしっかりと考えないといけないから、ある程度はやむないところもあるんですけどね。

 逆に、むしろ自社のお金をたくさんとられるはずなのに「先進医療保険特約を使えそうなので担当のお医者さんとよく相談して決めてくださいね」と、とても患者さんサイドにたって助言をしてくださる保険外交員の方々もいらっしゃいます。担当医によって治療の選択肢が大きく変わる、運不運だけでは片づけられない問題ですよね。自分の身は自分で守る、知識と自己防衛は大事です。


 他にもまだあるのですが、長くなってきたので本日はここまでとさせていただきます。

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